2019年7月文楽公演『仮名手本忠臣蔵』五段目~七段目@国立文楽劇場

2019年7月国立文楽劇場入口付近

4月に引き続き『仮名手本忠臣蔵』の五段目~七段目です。早々にチケット完売したそうで確かに満員でした。私は下手2列目のお席で、正面以外から初めての鑑賞。

◆通し狂言『仮名手本忠臣蔵』

五段目
 山崎街道出合いの段
 二つ玉の段
六段目
 身売りの段
 早野勘平腹切りの段
七段目
 祇園一力茶屋の段

山崎にある妻・おかるの実家に身を寄せている塩谷浪人・早野勘平(はやのかんぺい)は夜の街道で同じく浪人となった千崎弥五郎(せんざきやごろう)と再会し、敵討のための御用金の調達を約束します。娘婿を再び武士にするために用意した金を持って家路へ急ぐおかるの父・与市兵衛(よいちべえ)は、出逢わせた塩谷浪人の斧定九郎(おのさだくろう)に切り殺され財布を奪われてしまいます。しかしその定九郎は猪と間違えた勘平の鉄砲で撃たれ、勘平は偶然にも舅の金を手に入れるのでした。
与市兵衛の家に、廓からおかるの迎えが来ました。与市兵衛が勘平のために用意した金は娘であるおかるを身売りして用意した金だったのです。家に戻った勘平は、財布の話がきっかけで舅を殺したと思い込み、なんとかその場をしのいでおかるを引き渡します。
そこへ与市兵衛の亡骸が運び込まれ、おかるの母に親殺しと罵られた勘平は居合わせた弥五郎らにも責められ腹を切ります。しかし与市兵衛の傷から実は偶然に舅の敵を討っていたことが明らかになり、勘平は敵討の連判状に名を連ねるのでした。
塩谷家の家老であった大星由良助は、夜ごと祇園で遊び惚けています。同じく元塩谷家の家老で、今は高師直(こうのもろのお)に内通する斧九太夫(おのくだゆう)は、由良助の本心をさぐるため一力茶屋に姿を現します。由良助の息子、力弥(りきや)から届いた密書を一人になった由良助が広げているところを二階からは遊女となったおかるが覗き込み、縁の下からは九太夫が盗み読みしていると、その気配に気づいた由良助はおかるに身請け話をもちかけますが、茶屋にやってきた足軽、おかるの兄・寺岡平右衛門(てらおかへいえもん)は、大事を知ったおかるを斬って敵討の仲間に加わろうとし、勘平の死を知ったおかるは自ら死を望みます。その様子を聞いた由良助は平右衛門を仲間に加え、おかるに裏切り者の九太夫を討たせるのでした。

配役が発表されたとき、由良助が玉男さんじゃなくて和生さんが勘平と知り正直頭が混乱した。あの、「はつたと睨んで」からの由良助の秘めた腹の内を玉男さんで観たかったし、塩谷判官の切腹があまりに強く印象に残っている和生さんがまた切腹する勘平、通し上演だったらこういう配役チェンジはならないのかもしれないけれど、ここはもう気持ちを入れ替えて楽しむのみ、として臨みました。

 

2019年7月文楽公演のパンフレット

 

和生さんの勘平はやっぱり4月の勘平とは違っておかると二人できゃっきゃしていた雰囲気は微塵もなく(当然である)、すごく端正な勘平だった。勘平ってこんなにかっこよかったっけ。おかるのお母さんに与市兵衛を殺したと責められる場面、うつむく角度で勘平のつらさや申し訳なさ、苦しさが伝わるシーンになっていてすごかった。和生さんでよかったと思いました(単純なファン)。おかるの母、簑二郎さんの切々とした訴えも胸に響きました。腹切りは、自分の行いが元になった塩谷判官のときとは違って、巻き込まれた運命的なものから逃れられなくてどうすることもできなくて切腹というのがよくわかる感じだった。塩谷判官のときは、由良助を待って託したい気持ちがあったんですよね。でもこの勘平は、もうおかるや家族のことを想って走馬灯を走らせることもせず、連判状に血判し敵討ちに縞の財布を連れて行ってほしいという望みで精いっぱいで。なんだかひたすら勘平が悲しくて涙がにじんだ。

勘平腹切りの段の呂勢さんと清治さん、めっちゃよかったです。下手鑑賞だったので、いつもとは全く違う音の響き方で、距離がある方がより違いが分かる気がした。特に三味線は音がほんとに違うので驚いた。忠臣蔵は人気なので友の会の力をもってしてもなかなか良席が取れなくてやきもきしていたけれど、逆にいろいろなお席で観劇するのもいいかもしれないという発見でした。ただ上手でおかるを観たかったなあという気持ちはある。
余談ですが、先日舞台裏で清治さんをお見かけしたとき、すごくしゅっとされた(関西弁丸出し)たたずまいと着こなしでめちゃくちゃ素敵でした。さらに余談ですがこの日観劇後に黒いTシャツ姿の織太夫さんとすれ違う。衣装ではない技芸員さん、新鮮。そしてこの日の和生さんは後ろ髪がぴょこんと一筋跳ねていて萌えました、笑。

そう、今回の一番の見どころは一力茶屋の簑助様のおかるでしょう!ポスターのお人形がおかる。風に当たって酔い覚ましをしているおかるが下手から観ても震えるぐらいかわいくてどうしようかと。これは逆に上手で観なくてよかったかもしれない。和生さんで涙したあとあの簑助様のかわいさ、感情の高低差がしんどい。
私との距離が離れているからか、お人形がたたずんでいる感がよりくっきりと浮き出ていて、もはや三人遣いなのも分からないぐらいだった。おかるが確かにそこにいました。
階段を下りたら一輔さんおかるだったのが残念といえば残念だったけれど、あのおかるを観られただけでもう満足。津駒さんの色っぽさもあり、田舎で暮らしていたとは思えない立派な遊女っぷりでした。ただ、平右衛門とはあまり兄妹には見えなかった。
一人一役なので、お人形と太夫さんが合っている合っていない感をどうしても体感してしまうというか、これは下手観劇だったからかもしれませんが、なんというか一人一役はぴたりと合うとより立体的でおもしろくなるけれど難しいんだろうなと思った。文楽の醍醐味の三位一体ではなくばらばらに感じてしまう。目の前で藤さんを観られたのはとてもよかったです!七段目は演出も凝っていておもしろかった。

由良助は勘十郎さんでした。なんだろう、いつもの勘十郎さんとは違う感じ。うまく書けないけれど。私がすっかり玉男さんイメージで由良助を想像してしまっていたからかもしれないなと思う。平右衛門は玉助さんの回でした。以前、勘十郎さんが玉助さんを「体が大きいかららちっちゃく」的なことをおっしゃっていましたが、それが今回よく分かった。大きく演じられているのもあるだろうけど、ほんとうに大きいので。呂太夫さんとぴったりでした。それから4月に引き続き鷺坂伴内がおもしろかったです。伴内がおもしろいのか文志さんがおもしろいのかよく分からないけれど、お人形とのシンクロ率(似ている)。

全体的に、4月よりさらっと流れた感のある7月公演でした。11月公演は由良助が玉男さん、戸無瀬が和生さん、一部の『心中天網島』も観たいので両方とも絶対に行こうと思います。

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