2021年6月文楽若手会『菅原伝授手習鑑』『生写朝顔話』『万才・鷺娘』@国立文楽劇場

2021年6月文楽若手会の看板

大阪の文楽若手会は1日のみの開催、しかも月曜日の平日開催でお客様の入りはどうなのだろうと思っていたら、ここ最近で一番の盛況ぶりでほっとした。
若手会は通常なら土日の開催で例年観劇を諦めていたので、今回の平日開催は私にとっては非常にありがたいタイミング。初めての観劇となった。
その前週に行った文楽鑑賞教室後半午前の部、団体の観劇がキャンセルになっていて客席のさみしさと言ったら。予約時は前方の席が全部埋まっていて仕方なく最後列にしたものだから、とても歯がゆい気持ちのまま観劇した。よって記録もなし(視力があまりよくないのでさすがに見えづらい)そんな状況でも清十郎さんのお柳は格別、織さんと燕三さんがとっても素晴らしかった。
ほかの日程でも学生の団体さんはすべてキャンセルだったそう。来年こそはあの鑑賞教室ならではの若々しい、ふわっとゆるっとした雰囲気が戻りますように。

◆『菅原伝授手習鑑』(すがわらでんじゅてならいかがみ)

茶筅酒の段(ちゃせんざけのだん)
喧嘩の段(けんかのだん)
訴訟の段(そしょうのだん)
桜丸切腹の段(さくらまるせっぷくのだん)

これまでのあらすじ

三つ子の梅王丸(うめおうまる)、松王丸(まつおうまる)、桜丸(さくらまる)は、それぞれ右大臣の菅丞相(かんしょじょう)、左大臣の藤原時平(ふじわらのしへい)、帝の弟、斎世親王(ときよしんのう)に舎人として仕えています。桜丸と妻の八重(やえ)は斎世親王と菅丞相の養女、苅屋姫(かりやひめ)との密会の手引きを口実として天下掌握を企む時平の中傷により親王は失脚、菅丞相は筑紫へ流罪となってしまいます。

上演された段のあらすじと感想など

三つ子の父親、河内国佐太村に住む百姓の四郎九郎(しろくろう)は、菅丞相の下屋敷を預かり、菅丞相お気に入りの松竹梅の世話をしています。長生きで珍しい三つ子の父親ということを祝し、七十の誕生日に白太夫(しらたゆう)と名を替えさせることにしていましたが、菅丞相の流罪を知り、派手な祝い舞いは遠慮して、小さな餅に茶筅で酒をふり近所に配っていました。
そこへ三つ子それぞれの妻八重、春(はる)、千代(ちよ)が訪れ祝儀の仕度を始めますが、夫たちは姿を見せません。庭の木を息子たちに見立てながら祝儀をし、八重を連れて氏神詣に出掛けます。(茶筅酒の段)

出掛けた白太夫と八重と入れ違いに松王丸と梅王丸が順に到着するも桜丸はまだ現れません。吉田神社の遺恨が元で二人は口論から喧嘩になり、よろけたはずみに桜の木が折れてしまいます。(喧嘩の段)

戻った白太夫は折れた桜の木を咎めることなく松王丸と梅王丸からの書付を受け取ります。梅王丸は菅丞相の元へ行くことを願いますが、白太夫は御台所と息子の菅秀才を捜す方が先として聞き入れません。松王丸が願い出た勘当については聞き入れるものの、松王丸の主人である時平と敵対する梅王丸、桜丸を心置きなく討つためではないのかと非難し、二組の夫婦を追い出します。(訴訟の段)

残された八重が夫の身を案じていると納戸に隠れていた桜丸が現れ、菅丞相の流罪の責任を取り切腹すると言います。八重は泣いて引き止めますが、白太夫は八重が祝いに贈った三宝に腹切刀を準備していました。実は朝早くにやって来ていた桜丸から切腹の覚悟を聞き、祝儀が済むまではと忍ばせておいたのです。そして神意を問おうと氏神詣で梅王丸の妻からもらった扇で行った籤の結果と折れた桜の木を見て、これが定めと覚悟を決めていたのでした。白太夫は命を絶ち、後を追おうとする八重を立ち去らずに様子をうかがっていた梅王丸夫妻が留め、後を夫婦に任せた白太夫は菅丞相の元へ旅立つのでした。(桜丸切腹の段)

茶筅酒の段、亘さんと寛太郎さんだったのだけれど、亘さんの白太夫がとてもパワフルすぎて、少し圧倒された。白太夫って、この時点で実は桜丸の覚悟と運命を知っていてそれを隠しているわけだけれども、その心中は絶対に穏やかでないはずで。自分の誕生日の祝いに感謝して上機嫌そうに見えながら、精いっぱいの空元気、というか、秘めた陰りのようなものがある(当然こちらにもあからさまに分かるようなものであってもだめだとは思う)はずで、その塩梅がものすごく難しいのではと思っていて。なので、あの全力な感じが少し的外れのように(個人の感想です)思えてしまった部分があった。

訴訟の段、小住さん&友之助さん、友之助さんの三味線、好きだなあ。三味線がかっこいいし、ご本人もかっこいい(語彙力)鑑賞教室でも思ったのだけれど、友之助さんの説明がとても分かりやすくて、ひと撥ごとの違いがすっと入ってきた。前回までの太夫さんと三味線さんの説明と何か変わった?とにかく今回とても分かりやすかったので、学生さんがいなかったことがつくづくもったいない。

桜丸切腹の段。1月に観たときは簑助さんの桜丸の、登場時から死のまとわりついたあの姿からもう悲しくてやりきれなかった段。白太夫の簑紫郎さん、桜丸の紋吉さん、八重の紋秀さん、よかった。特に八重ちゃんが好きだった。桜丸が切腹するときに耳をふさぐ仕草は紋秀さんの八重ちゃんもやっていたのでデフォルトなんだと思った。でもそのあとの縋り付き方など違うところがあったので、人形遣いさんによって遣い方が違うということを改めて知れてよかった。
ところで紋秀さん、ヘアスタイルを変えられましたよね?以前よりもぐっと短髪でものすごく若々しくきりっとされていてびっくり。

 

2021年6月文楽若手会のガイドブック

 

◆『生写朝顔話』(しょううつしあさがおばなし)

宿屋の段(やどやのだん)
大井川の段(おおいがわのだん)

これまでのあらすじ

大内家の家臣、宮城阿曾次郎(みやぎあそじろう)は、宇治川に蛍狩りに訪れ、芸州岸戸の家老、秋月弓之助の娘・深雪(みゆき)と出逢い、恋に落ちます。深雪に乞われ、阿曾次郎は深雪の扇に朝顔の歌を認めます。阿曾次郎に国許から命が下りたことにより心ならずも別れた二人は明石浦で再会しますが、運命のいたずらで再び離れ離れになってしまいました。
その後、深雪は艱難を重ね、目を泣き潰し、浜松の街道筋で三味線を弾いて露命を繋いでいました。乳母の浅香に再会したものの、浅香は襲われた深雪を守って致命傷を負い、死の間際に、困ったときには嶋田宿辺りにいる自分の父を頼るよう伝え、深雪は嶋田宿に向かいました。
一方、家督を継いで駒沢次郎左衛門(こまざわじろうざえもん)と改名した阿曾次郎は、所用の帰りに嶋田宿の戎屋徳右衛門(えびすやとくえもん)方に逗留しています。大内家の横領を目論む同輩の岩代多喜太(いわしろたきだ)らは次郎左衛門の暗殺を企てますが、徳右衛門の機転で事なきを得ました。

上演された段のあらすじと感想など

座敷に戻った次郎左衛門は、傍らの衝立に貼られた扇面に記された朝顔の唄は、朝顔という盲目の女性の唄うものと知ります。その女性は深雪なのではと考えた次郎左衛門が座敷に呼んでみると、やはり朝顔は変わり果てた深雪で、琴に合わせて朝顔の唄を唄い、次郎左衛門と別れてからの苦労を語ります。次郎左衛門は自分が阿曾次郎だと名乗ろうとしますが、多喜太の手前それもできず、深雪もまた聞き覚えのある声だと思いながらも帰って行きます。
次郎左衛門は多喜太が座敷から去った後、朝顔をもう一度呼ぶよう徳右衛門に頼みますが、別の場所に出掛けてしまい今夜中には間に合わないと言うので、明石浦で自分に残された扇にお金と目薬を添え、朝顔に渡してくれるよう頼んで出発します。その目薬は明国渡来のもので、甲子(きのえね)の年に生まれた男性の生き血とともに服用すれば、どんな目の病気も即座に治るというものでした。
何か気にかかるものがあり急いで戻ってきた深雪は、渡された品々から次郎左衛門が夫の阿曾次郎で会ったと知り、雨の中その後を追うのでした。(宿屋の段)
深雪はやっとの思いで大井川までたどり着きますが、次郎左衛門一行はすでに川を渡ってしまっていたうえ、急な出水で川止めとなってしました。せっかく逢えた夫とまたもやすれ違ってしまい絶望してしまった深雪は川に身を投げようとしますが、駆け付けた奴関助(やっこせきすけ)に引き留められます。同じく後を追ってきた徳右衛門は深雪と関助の話を聞くと短剣を腹に突き立てます。徳右衛門は自分こそが浅香の父であり、かつて深雪の父に命を救われたこと、甲子の生まれであることを語り、徳右衛門の生き血で目薬を飲むと、とたんに両目が開きました。その様子を見届けて徳右衛門は息を引き取るのでした。(大井川の段)

今回、大阪公演中止からの日程変更で、チケット販売が友の会経由でなく座席指定もできなかったため、当日座った席が真ん中通路を挟んで一列目の太夫さん、三味線さん近くの席だった。この席がなかなか新鮮で、前列前方に座ると当然お人形さんにほぼほぼ集中して観劇するのだけれど、真ん中を外すだけで全体的に楽しめた。いろんな場所から観劇するものまたいいもの。

宿屋は希さん、清尤さん、よかった。久しぶりに親子別れでない(という訳でもなかったけれど)の物語、深雪と阿曾次郎の運命がどうなっていくのか、とシンプルにお話を楽しめた。これぐらいの加減がちょうどいいなあとしみじみ思う。
玉翔さんの阿曾次郎、かっこよかったです。名乗り出たいのに名乗れないもどかしさや、深雪のためにお金や目薬を託して去って行くところ、心を残しながらも果たさなければならない役割がある辛さ。
対して玉輿さんの深雪、次郎左衛門が愛しい人だと分かった激しく途端キャラ変し、足元もおぼつかないまま必死に追いかけたのに川止めをくらって絶望するというくだりが、咲寿さんの語りと相まって壮絶だった。咲寿さん、Twitterかどこかで、声優と仰っていたと思うのだけれど、今回その感覚がよく分かった気がする。その面ではこの大井川の段は合っていたような気がした。
そして一番好きだったのは文哉さんの徳右衛門だな。端々からまともな人オーラが出ていたもの…動きもちょくちょくコミカルで、この人はきっと何かしらやってくれるというわくわく感。

この後のあらすじ

深雪は関助と東海道を上り、大坂の次郎左衛門の元へ向かいます。大内家を仇敵と狙っていた大友家の残党を討ち、多喜太を共に国元へ帰る途中の主君、大内義興(おおうちよしおき)も次郎左衛門の屋敷を訪れ、深雪と次郎左衛門こと阿曾次郎はようやく再会を果たします。義興は2人に祝言を挙げさせ、大友家と内通していた多喜太の悪事も暴かれ、御家は安泰となるのでした。

◆『万才・鷺娘』(まんざい・さぎむすめ)

『花競四季寿』より。
これも最近観たばかりの演目。万才は床が印象的なので2回目観ただけでも割と覚えている。特に店先に並んでいる豪華な布の名前。日本語って美しいなあと聴きながら。
鷺娘の衣裳の引き抜きで、清十郎さんのブログで書かれていた、8分の出番に対して1時間かけて清之助さんが毎回ちくちく衣裳を縫ったというお話を思い出して、なんだか感無量に(なぜ、笑)この引き抜きの仕掛けの過程を丁寧にお写真で説明してくださっていて、針仕事が大の苦手、正直言うと嫌いな自分にとって、このようなところからもお人形遣いさんの凄さをひたひたと感じる次第。
インスタグラムも楽しんでいるけれど、やっぱり文章を書く、読む、ということが好きな自分には、清十郎さんのブログはめちゃくちゃ有り難くていつも大事に拝読しています。そんな人、きっとたくさんいると思うな。

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