2018年11月文楽公演『蘆屋道満大内鑑』『桂川連理柵』『鶊山姫捨松』『女殺油地獄』@国立文楽劇場

11月文楽公演の看板

楽しみにしていた11月文楽公演、鑑賞してまいりました。一部は土曜日に娘を幼稚園のホームクラスにあずけて友人2人と、二部は平日に娘を夫にお願いしてひとりで。そして一部終了後には娘を園へ迎えに行き友人たちとうちで一緒に夕食、というのがパターンになりつつあります。

以下超初心者によるざっくりな内容と鑑賞メモ。お話の内容は友の会会誌とガイドブックよりざっくりと引用させていただいています。

 

◆蘆屋道満大内鑑(あしやどうまんおおうちかがみ)

葛の葉子別れの段(くずのはこわかれのだん)
信田森二人奴の段(しのだのもりににんやっこのだん)

阿倍野の里に隠れ住む安倍保名(あべのやすな)は、葛の葉(くずのは)との間に安倍童子(あべのどうじ・のちの安倍晴明)をもうけて幸せに暮らしていました。そこへ葛の葉姫を連れた信田庄司(しのだしょうじ)夫婦が現れます。真の葛の葉姫の来訪に童子の母は保名に助けられた白狐であると自らの正体を明かし、童子の将来を託して姿を消すのでした。(葛の葉子別れの段)

都を目指す保名一行の前に悪右衛門(あくえもん)一党が立ちふさがります。保名の奴与勘平(やっこよかんぺい)の加勢に瓜二つの奴野干平(やっこやかんぺい)が現れますが、この野干平こそ狐葛の葉の同族の化身だったのでした。(信田森二人奴の段)

子別れの段と二人奴の段の対比がおもしろい。葛の葉(狐のほう)は吉田和生さんで、狐へと変化する場面には思わず歓声が。衣装も白くふわふわとしていて美しかったです。童子と別れる切なさや悲しさが伝わってきてしんみりとしていたところ、二人奴のコミカルさに笑ってしまいました。
野干平は吉田玉助さん。お若くてエネルギッシュな雰囲気の方なのでこういう役がぴったりはまるなあと思う。
文楽を鑑賞していると馴染みのごく近所に文楽ゆかりの地がいくつもあることが分かり、それもまた興味深いところです。
安倍保名夫婦のすまいがあった阿倍野、以前鑑賞した『摂州合邦辻』のえんま堂。なかでも驚いたのは、娘が通うスイミングスクールの通り道に義太夫節の祖である竹本義太夫の墓があるのを発見したとき。文楽を知らなければ素通りしていた場所に大坂由来の芸能の軌跡を発見することができるなんて、それだけで普段の風景もまた違って見えるような気がしてくるのです。

 

◆桂川連理柵(かつらがわれんりのしがらみ)

六角堂の段(ろっかっくどうのだん)
帯屋の段(おびやのだん)
道行朧の桂川(みちゆきおぼろのかつらがわ)

帯屋の主人長右衛門(ちょうえもん)は隣の信濃屋の十四歳のお半と関係を結んでしまいました。長右衛門の女房お絹は、信濃屋の丁稚長吉(ちょうきち)をお半の情夫は自分であると名乗るように仕向けます。(六角堂の段)

帯屋の乗っ取りを企む長右衛門の継母おとせと義弟の儀兵衛(ぎへえ)は長右衛門に金紛失の罪を着せ、お半とのことも暴露して陥れようとしますが、長右衛門の父繁斎の理解とお絹の機転でその場を免れます。(帯屋の段)

しかし、その夜帯屋に訪れたお半が残していった書置を見て心中を決意し、お半を追って桂川へ向かうのでした。(道行朧の桂川)

実際に起きた事件をもとに脚色された世話物(せわもの)で、25も年の差がある二人が心中に至る経緯や継母たちが家督を狙う陰謀、お絹をはじめとするまわりの登場人物のキャラ立ち具合、三味線の合奏や太夫の語りなど観どころ聴きどころが多く。私が文楽にはまったのは、この、目と耳と脳を使って鑑賞しているという充実感が三位一体の文楽でしか得られない快感だからというのもあります。
さて、長右衛門は吉田玉男さん、お半は桐竹勘十郎さん。一人で死のうとしている長右衛門に、「定まり事とあきらめて、一緒に死んで下さんせ」と言い切るお半がいじらしくも強い。きっぱりと自分の想いを長右衛門に伝えていて、なんて情熱的な告白をするのだろうと感嘆しました。対して長右衛門は逆にぱっとしない人というか、そこまでお半が長右衛門に惚れ込む理由が私には分からない。しかも、お半は小さいころから長右衛門が好きだったみたいなんです!もうお半の熱すぎる恋情にやられました。夫を支えるお絹がまたできる妻で、そこにもまたぐっときます。長右衛門、実に罪な男…。
『道行朧の桂川』は、もう勘十郎さんのお半がかわいらしくて。天を仰ぎ見るお半がまさに最期のきらめきのように美しいラストシーンでした。

 

2018年文楽11月公演ガイド

 

◆鶊山姫捨松(ひばりやまひめすてまつ)

中将姫雪責めの段(ちゅうじょうひめゆきぜめのだん)

横はぎの右大臣豊成の後妻岩根御前(いわねごぜん)は天皇を呪詛する長屋の王子の目乳母であったので、継子の中将姫が天皇からお預かりしている観音像が紛失した罪を姫に着せて座敷牢に閉じ込めてしまいました。雪の降りしきる寒空に岩根御前は、一味の大弐広嗣(だいにひろつぐ)とともに姫を引きずり出し、折檻して自白を強要します。見かねた侍女の桐の谷(きりのや)と岩根方の浮舟が争ううちに姫は急所を打たれて息絶えてしまうのでした。(中将姫雪責めの段)

 

なんて緊張感のあるドラマチックなお話なんでしょうか。
雪の中折檻される中将姫が痛いたしくて儚くてなのに美しくて観ているほうも顔をそむけたくなるほど(でも観たい)。それもそのはずで中将姫は吉田簑助さん。桐の谷と岩根方の浮舟は、実は岩根御前をだまし中将姫を守るためにわざと争い姫が死んでしまったと見せかけ鶊山へと逃げる、というひと芝居をうっていたわけですが、それを知っていても場面の陰惨さに力が入ってしまいました。
しかし場面としてはあくまで高貴な方々による”雪責め”で、下卑た継子いじめにはなっていないのです。いやあすごかった。桐の谷は吉田一輔さん。中将姫にふるわれる割竹の乾いた音、胡弓の切ない響きがまた印象的でした。

 

◆女殺油地獄(おんなころしあぶらのじごく)

徳庵堤の段(とくあんづつみのだん)
河内屋内の段(かわちやうちのだん)
豊島屋油店の段(てしまやあぶらみせのだん)

大坂本天満町の油屋、豊島屋七左衛門の妻お吉が娘を連れて徳庵堤で一休みしているところに、同じ町内の油商河内屋の次男与兵衛がやってきました。継父の徳兵衛が番頭あがりで遠慮がちなのをいいことに放蕩三昧で、馴染みの遊女小菊を巡って会津の客とけんかをしていると、つかみ合った拍子に泥水が侍の袴にかかり、手打ちにされそうになります。恐れた与兵衛は野崎参りから帰ってきたお吉に助けを求め大坂へ逃げ帰りました。(徳庵堤の段)

病に伏せる妹おかちの平癒を祈祷するために稲荷法印が訪れます。与兵衛は病に伏せる妹に実父の霊が憑いたことにして、徳兵衛に自分に家督を譲ると病は治る、とおかちに言わせますが聞き入れられず徳兵衛を蹴る与兵衛。その与兵衛の企みもおかちによって暴露されおかちをも蹴り飛ばし、帰ってきた母お沢にも手を上げる始末についに徳兵衛は与兵衛を勘当してしまいます。(河内屋内の段)

親の印を偽造して高利貸から金を借りた与兵衛。返済期限の5月5日の夜、同業の豊島屋に上がり込み女房のお吉に借金を頼みます。お吉は徳兵衛とお沢がお吉に預けた金と粽を渡しますがそれでも足りないと言い、夫の留守中であるため貸せないと断ります。それなら油を貸してほしいと与兵衛は言い、持参していた脇差でお吉を刺し、金を奪って逃げてゆくのでした。(豊島屋油店の段)

文楽のつどいにて和生さんと勘十郎さんからお話を伺っていただけあって、非常にすっと内容が入ってきました。勘十郎さんが注目とおっしゃっていた『河内屋内の段』、なるほどなあと。やっぱり与兵衛ってどうしようもない奴ですよ。結果としてお吉さんを殺してしまうまで堕ちた人なのですが、ただ、親子、というか義理の親子がうんだ関係の歪さというのは浮き彫りになった感じがしました。最終的に見捨てきれずお金と粽までお吉さんに託していますからね…。
そんな与兵衛とは逆に、お吉さんが妻、女性、母として立派な人だったんだろうなと。
のお吉さんが毎日を真面目に暮らしている中起こってしまった非日常が死(しかも昔からの顔なじみであり商仲間でもある与兵衛によってもたらされた死)ということがより恐ろしい。油まみれになって逃げ惑うお吉さんと迫る与兵衛、圧巻でした。足遣いがエンジンとなってあのスピード感を出している、とおっしゃっていたのにも納得。殺意のターニングポイントという与兵衛が樽を見た瞬間、本当に一瞬です。

私が個人的に一番ぞくっとしたのが、与兵衛がお吉に
「不義になつて貸してくだされ」
と言ったときの、あの色気!あれはなんなんですか!勘十郎さんの与兵衛と呂太夫さんの語りが完全にシンクロしていて、もう人形とは思えなかった。あんなに色っぽく迫られたら私はきっと動悸が止まらなくなってしまうに違いない…。これが文楽なんだー!と無性に感動しました(そんな場面じゃないのに)。

そして、そんな色っぽい与兵衛のお誘いにも全く動じず
「ハテならぬと言ふにくどいくどい」
「くどう言ふまい貸して下され」
「イヤ女子と思うてなぶらしやると、声たてて喚くぞや」
と続く応酬にもまた与兵衛のどうしようもなさが露呈していて、お吉さんが気の毒でなりません。近松作品はストーリーがおもしろくて引きつけられます。新春公演の『冥途の飛脚』も楽しみ。

 

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