2022年11月文楽公演『壷坂観音霊験記』『勧進帳』@国立文楽劇場

2022年11月文楽公演の劇場内の弁慶

文楽の勧進帳もぜひ観た方がいい!ということで観てきました。
歌舞伎も文楽も通いなれている友人たちとは違って、歌舞伎の勧進帳も観たことのない私は演目も花道も初。
壷坂観音霊験記も初。

壷坂観音霊験記

上演された段のあらすじと感想

大和国の壷坂寺に近い土佐町に、沢市(さわいち)とお里という夫婦が暮らしていました。お里は疱瘡(ほうそう)により目が不自由になった沢一を献身的に支え、内職で生計を立てています。
ある日、お里が針仕事をしていると、沢市は三味線を取り出し歌い始めます。夫の機嫌がよいことにお里は喜びますが、沢市は死にたいほど気づまりであり、お里が毎晩明け方になるとどこかへ出かけていくことを知っているのでほかに好きな男がいるのなら正直に打ち明けてほしいと言います。
お里は思いもかけない夫からの疑いに悲しみながら、眼病が治るよう壷坂寺の観音様へ祈願に通っていたと明かします。真実を知った沢市はお里に謝りますが、それほど祈願しても叶わないならば、自分の目は治らないものと落胆します。お里は沢市を気遣い、2人で壷坂寺へ参詣にいこうと誘います。
壷坂寺は桓武天皇の眼病が時の住職の祈祷によって平癒したという霊験あらたかな霊地です。2人は本堂へ上がり御詠歌をあげ、お里は弱気な夫に観音様の慈悲を説き、一心に信心するよう励まします。
お里に力づけられた沢市は3日間寺に籠って祈願するので、お里に家に帰るよう言います。お里が家に戻ると、沢市は妻を疑い世話をかけてばかりの自分がいないほうがお里のためになると、谷から身を投げてしまいます。
胸騒ぎがしたお里は大急ぎで寺に戻りますが、注意するように伝えた谷底に横たわる夫の亡骸を発見します。嘆き悲しむお里は夫の後を追い、自分も谷に身を投げます。すると雲間より観世音菩薩様が姿を現し、お里の貞心と信心の功徳により、2人の寿命を延ばすと告げます。
そして夜明けの鐘が鳴り、2人は息を吹き返しました。沢市の眼病も治り目が見えるようになっています。2人は観世音菩薩の後利生に感謝し、喜び合うのでした。(沢市内の段)

お里・清十郎さん、沢市・簑二郎さん。
2人はいとこ同士、結婚3年目の夫婦でまだまだ若いのだろうが、お里がまあ献身的な嫁すぎて驚く。沢市が自分なんてお里にはもったいないと思ってしまうのもある意味分分かる、な感じ。
沢市が自分の眼病や疱瘡に相当ネガになっているので、お里の明るさが唯一の救いになっていた。そしてその明るさが若い子ならではのきゃぴ(死語)っとしたものではなく非常に落ち着きがある。ちなみにお里の方が3歳年下。

沢市のお里への愛情はもちろんのこと、お里があれほどまでに沢市を愛する気持ちはどこからきたのだろう、と気になった。
幼馴染のように育ってきたはずなので沢市の人となりはよく知っていたのだろうが、いくら沢市がいい人で三味線が上手だったとしても夫婦としてやっていくには困難だらけなのが分かりきっている人との結婚。
お里自身、浮気を疑われガックリとなって言うクドキ、

『生まれもつかぬ疱瘡で、
盲いの見えぬそのうえに、
貧苦にせまれど何のその、』

と状況をきちんと理解している。
なのにそこから、

『たとへ火のなか水の底、
未来までも夫婦じゃと、
思うばかりかこれもうし、
お前のお目をなおさんと、
この壷坂の観音様へ、
明けの七つの鐘を聞き、
そっと抜け出てただ一人、
山路いとはず三年越し、
切なる願いに御利益のないとはいかなる報いぞや。
観音様も聞こえぬと、今も今とて恨んでいた。
私の心も知らずして、ほかに男があるように、
いまのお前の一言が、私は腹が立つわいのと、
くどき立てたる貞節の、涙の色ぞ誠なり。』

と続くという。

お里ちゃん、なんて激重。たとえ火の中水の中、的な言葉なんて犯人を追う復讐犯からしか聞いたことがない。
何があっても沢市を支えて添い遂げる、と覚悟を決めるような決定的ななにかがあったのかしら…

そして、よくある流れだと2人が亡くなって終わり、というパターンになっていそうなのに、お里の信心に2人を生き返らせ沢市の目や疱瘡も治してくださったという完璧なハッピーエンドが珍しいなとも思った。
そして、目が見えるようになって初めてお里を認識する沢市(あれは再び恋に落ちた男の姿だったね)、認識されたお里にきゅん…としたわ。
ここからまた新たな2人の恋が始まるんだろうなあ。2人に幸あれ。
私としてはこういうお話は大歓迎で大好き。

奈良県育ちのため、大昔に何度もお参りしたことがある高取の壷阪寺。
当時はもちろんお里や沢市の話は知らなかったので、今、お参りに行きたい。
(文楽を観るようになってからこんなことばかり…いくつになっても知ることって本当に大事)

勧進帳

あらすじと感想

平家追討にあたり、一ノ谷、屋島、壇ノ浦の戦いなどで名を上げた源義経でしたが、その功績を妬む者の讒言(ざんげん※1)により、兄であり源氏の棟梁である源頼朝から疎んじられます。追われる身となった義経は山伏に変装し、わずかな供を連れ、藤原秀衡(ふじわらのひでひら)を頼るべく奥州に向かい、対して頼朝は各地に関所を設けて山伏を厳しく取り調べることにしました。
加賀国安宅(あたか)の新関を守る富樫之介正広(とがしのすけまさひろ)では、山伏が通れば連れてくるよう番卒※2に指示をしています。そこへ、伊勢三郎(いせのさぶろう)、駿河次郎(するがのじろう)、片岡八郎(かたおかはちろう)、常陸坊海尊(ひたちぼうかいそん)、武蔵坊弁慶とともに剛力※3の姿に身をやつした義経が現れます。番卒の詮議に弁慶は本物であれば構わないだろうと答えますが聞き入れらせません。
そこへ現れた富樫は、もし勅命により全国を廻って勧進※4を募っているのなら、持っているはずであろう勧進帳※5を読み上げるよう言い、弁慶はとっさに白紙の巻物を勧進帳のように扱い、焼亡した東大寺の大仏再建のため諸国を巡って浄財を集めていると読み上げます。
それでも疑う富樫は山伏の法についての質問し詰め寄りますが、淀みなく答える弁慶にさすがに富樫も感じ入り、通行を許可し布施物を進上します。一行が関所を通り過ぎようとすると、富樫は少し遅れて歩く剛力姿の義経を呼び止め、義経に似ていると指摘します。見抜かれたと焦る一同を制し、弁慶は、歩みが遅く行程も遅れ、その上義経に間違われるとはけしからん、と金剛杖で義経を打ち、打ち殺さんばかりの弁慶に真実を見抜いた富樫は、疑いは晴れたと改めて通行を許すのでした。
関所から離れ、敢えて義経を打った機転を褒める一同に対し、敵を欺くためとはいえ主君を打った罪深さに弁慶は平伏し涙をこぼします。
するとそこへ疑いを重ねた無礼の詫びに酒を献上したいと富樫が追いかけてきます。盃を受けた弁慶は延年の舞を舞いながら義経らにそっと出立を促します。一行が再度富樫から逃れたことを確かめ、弁慶も後を追っていくのでした。

※1 他人をおとしいれるため、ありもしない事を目上の人に告げ、その人を悪く言うこと。
※2 番をする兵卒。番兵。
※3 荷物を背負う下僕
※4 寄付
※5 寄付の趣旨が書かれた巻物

友人2人と花道近くのお席をがっつりと予約。
弁慶は玉助さん、左が玉佳さん、足が勘介さんでみなさま出遣い。
ラストの花道を通る引っ込みの様は圧巻だった。
季節問わず人形遣いの方々は汗をかいてらっしゃることが多いのが納得、というか、想像以上に相当な運動量体力身体バランス諸々が必要な体も資本な芸能なのでは?
鑑賞教室やはじめての文楽、みたいな機会にこの一場面でも上演すれば、人形遣いってすごいことしてるんやで!と分かりやすいような気がしたり。
あとやっぱり花道沿いのお席であればかぶりつきで観られるのですごく楽しいと思う。
のだけれども、私たちが座っていた反対側の花道沿いのお席は全て空席だったので、複雑な気持ちになった。
今回、勧進帳だけを特別価格で観られる企画があったようで2,500円とお得でいいなあと思ったものの、当日18時30分以降現地で販売、というなかなかにシビアな条件。
仕事終わりにちょっと文楽観ていく?な人、文楽観劇デートでもする?、な人たちがいればいいけれど、実際そうはいないよね…
そもそもご新規さんへの門戸がめちゃ狭な雰囲気のある文楽、もっとたくさんの人に観てもらうにはどうすればいいのかな、なんて友人たちと話してました。

話を戻して、富樫は弁慶や義経をものすごーく疑っていたにもかかわらず弁慶の機転の良さや武士としての心意気に打たれて情けをかけたということ。
弁慶といい富樫といい、お互いの生死を懸けて胸に真実を秘めながら交わす盃。弁慶の延年の舞がより沁みるわけだよね…
いやいや、これは人気の演目なことも観るべきなことも納得でした。
拍手をしながら、心からお疲れ様です(拝む絵文字)と思った。

************************

観劇後は、友人たちと地下鉄日本橋駅から難波側に出た改札すぐそばのなんばウォークの「初かすみ酒房」へ。
さくっとお酒とおつまみを楽しみに観劇後に友人がよく行くお店は奈良の久保本家の酒蔵直営ということで、お酒はもちろん季節のおつまみがずらっと勢ぞろいしていた。
お酒各種と蟹身がしっかり入った蟹みそ、銀杏、お造り、酒蔵の粕汁などどれもおいしかったし、お姉さんの接客がちゃきちゃきとしていて気持ちよい。
喫煙OKなところが非喫煙者にはギャンブルな部分がありますが(今回は運よくお隣は非喫煙者だった)また行きたいお店です。

2022年11月なんばウォークの「初かすみ酒房」の秘蔵和え

こちらの酒器、お酒がたんまりと入っていて片口が猪口にかかった状態で提供されて、猪口にある程度注がないと酒器から酒がこぼれてしまうところもよい。
そして手前のお料理が「蔵元秘蔵和え」という、しめ鯖と酒粕などの和え物。これがまた酒飲み心をくすぐる逸品。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です