2025年4月文楽公演『通し狂言 義経千本桜』初段、二段目@国立文楽劇場

令和2年4月に予定されていた『義経千本桜』の通し上演が、この春5年越しに実現。
通しは厳しくとも、せめて観たことのない1部だけでも、と思いながら、なんとか千穐楽にぎりぎり駆け込み観劇できました。

『義経千本桜』(よしつねせんぼんざくら)

上演された段のあらすじと感想

後白河法皇の御所に八島の戦勝報告に訪れた義経。左大臣・藤原朝方(ふじわらのともかた)は法皇からの恩賞として「初音の鼓」を授けます。しかしこの鼓の裏皮を義経、表皮を頼朝にたとえ、兄を討てという院宣であると伝えられた義経は当惑し、鼓を返上しようとしますが、院宣に背けば朝敵であると朝方に迫られます。義経は鼓は打たないと誓いを立てて鼓を拝領しました。(仙洞御所の段)

朝方の讒言により、頼朝からの使者・川越太郎が義経と正室・卿の君(きょうのきみ)らが住まう二条(史実では六条)の堀川御所へ遣わされます。頼朝は義経に三つの不審を抱いており、返答によっては義経を討つよう命じられていました。第一の不審、義経が届けた平知盛、維盛、教経の首が偽物であった理由、第二の不審、初音の鼓を拝領し、謀反を企てているのではないかという疑いについて、それぞれ弁明します。三つ目の不審は平家出身の卿の君との婚姻についてでした。卿の君は実は川越の実子であり、清盛の義弟・時忠の幼女となった後に義経に嫁いたのです。川越は義経との縁を明らかにするわけにはいかず、頼朝にはこの事情を伏せていました。義経より実の親子関係を明かさない真意を問われて切腹しようとしたとき、卿の君が刀を奪い、自害してしまいました。
しかし、そこへ弁慶が鎌倉方の大将を殺したという知らせが入ます。もはや和睦も叶わないこととなり、卿の君の自害も無駄となってしまいました。義経は兄との対立を避けるため都を立ち退き、弁慶もその後を追うのでした。(堀川御所の段)

都を後にした義経たちを追う静御前は、伏見稲荷で再会し同行を願うものの許されず、形見として与えられた「初音の鼓」とともに置き去りにされてしまいます。鎌倉方の土佐坊正尊(とさぼうしょうそん)の家臣・速見の藤太(はやみのとうだ)が静を攫おうとするところを、義経の家臣・佐藤忠信(さとうただのぶ)が成敗します。実はこの忠信は狐が化けた偽物です。義経は褒美として忠信に「源九郎」の名と鎧を与えて身代わりになることを許し、静の守護を頼んで大物浦へと向かいます。(伏見稲荷の段)

九州へ落ち延びようとする義経一行は、尼崎大物浦(だいもつのうら)の廻船問屋・渡海屋(とかいや)に船を求めますが、雨に足止めを余儀なくされています。ところがその渡海屋の主人、銀平は、壇ノ浦で滅ぼされ入水したとされる中納言知盛でした。そして安徳天皇を娘のお安、乳母の典侍局(すけのつぼね)を女房と偽り、義経を討つ機会をうかがっていたのでした。知盛は悪天候の中、義経一行を出航させると、幽霊の姿に扮して義経へ復讐を仕掛けます。一方、安徳帝を守りながら知盛を待つ典侍局は、計略を見抜かれていたのか味方の大半が討たれたとの知らせを受け、帝と共に入水しようとします。そこへ現れた義経に止められ、二人は助けられます。
深傷を負い、長刀を杖にして戻ってきた知盛は、安徳帝を抱いた義経に力を振り絞って勝負を迫ります。弁慶は数珠を投げ知盛に出家を促しますが、知盛はそれを拒みます。しかし「今またわれを助けしは義経が情け、仇に思うな」という天皇の言葉と、天皇を供奉するという義経の言葉を聞き、典侍局は自害し、知盛は天皇に今生の別れを告げ、瀕死の体に大碇を巻きつけて海中へと身を投じるのでした。(渡海屋・大物浦の段)

「義経千本桜」は超ざっくり言うと「壇ノ浦で義経に滅ぼされたとされる平家の武士たちが実は生きていて、兄の頼朝に追われる身になった義経を討とうとするけれどかなわない話」と「義経が拝領した初音の鼓と佐藤忠信に化けた狐の話」の2本の軸があり、タイトルにもなっている義経自身はむしろ脇役、スパイス的存在なのがおもしろい。
文楽で観る作品の題名って独特だなあと思うことが多いので、なんでこの題名になったのかをなんとなく理解できるようになるには、やっぱり通し上演はありがたいと思った(通しで観られていないけれど)
ちなみに、義経が千本桜というのは、
「実にも名高き大将と、末世に仰ぐ篤実の、強く優なるその姿、一度に開く千本桜、栄え久しき」
という初段最後の詞章が由来だそう。かっこいい。

今回はもうもう渡海屋・大物浦段の和生さん演じる典侍局が圧倒的、泣かされまくりでした。
乳母って実の親子でもないし、むしろ職業上の関係であるはずなのに、実の親子より親子なのはなんでだろうと、やっぱり家族って血だけじゃないんだろうなあと乳母が出てくるたびに思わされる。
海へ向かって幼い帝の前をゆっくり歩く典侍局が何度も何度も振り返って帝の顔を見つめるのが、愛情しかなくてたまらなく悲しくて、今も思い出して涙が出そう…
あのメリヤスがまた全力で泣かせにかかっていて、音は流れているのに場面はしんと張りつめていて、すごい雰囲気だった。
そして全力で典侍局を信頼している帝もしんどいぐらいかわいかった。典侍局が一緒に波の下へ行ってくれるならうれしい、一緒ならどこにでも行く、といういじらしさよ…つら。まだまだ幼いのに天皇としての自覚と威厳がしっかりあった。あのとき義経が間に合って本当によかったよ…
典侍局は結局、自分がいると天皇のためにならないと自害してしまうのがまたつらいところ。屍を越えていけ、を地でやっているというか、まさにそうなのだろうなと思った。

そして玉男さんの知盛、まさに怪演という感じ。体はぼろぼろなのに立ち上る復讐への執念の対比がすごかった。お人形のサイズもビッグだけれど、背負っているもののビッグさも感じるお姿だった。ラストの海へ落ちるシーンも生々しすぎて怖いぐらいだった。

玉佳さんの弁慶もかっこよかったなあ。
それにしても弁慶には「いらんことしー大賞」を勝手に授与したい。

床は、その弁慶がいらんことをしまくった堀川御所の段のアト、亘さんと友之助さんがよかった~!
そして大好きコンビ、渡海屋・大物浦段の切、錣さんと宗助さんも圧巻。
お人形はもちろんだけれど床が楽しみで、最近は床の側の席で観劇しています。演者さんがはけるときも床の方を向いてすごく拍手してます、笑。
観に行けてよかった!

1階の展示では桜がテーマになっていました。
近くで小道具を観られるのはとても貴重。桜の花びらはホチキスで留められていました(なんと細かい作業)
お人形もお人形単体で観たり、こうして写真で観たりすると、舞台上で3人で遣われているいるお人形がいかに生きているかが分かってすごく興味深い。
舞台に上がると、もうお人形じゃないんですよね、本当にすごいことだと思う。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です