2021年7・8月夏休み文楽特別公演『生写朝顔話』@国立文楽劇場

2021年夏休み文楽特別公演ガイドブックと友の会会報217号

最近は、出掛ける用事と言えば買い物か文楽か、ぐらいしかないため、ブログにできる内容が偏りすぎてなんだかなと思いつつ。でも文楽を観に行けるだけでも本当にうれしい。去年に比べて、月に1度でも劇場に通えること自体が有り難いことなんだと、しみじみと感じる。
夏休み公演は、3部は諦めて(いつになったら私は『夏祭浪花鑑』を観られるのだろう?)1部と2部に行くことにした。1部は娘と後日、2部の『生写朝顔話』先日の若手会でも観たばかりで楽しみだった演目。

◆『生写朝顔話』(しょううつしあさがおばなし)

明石浦船別れの段(あかしうらふなわかれのだん)
薬売りの段(くすりうりのだん)
浜松小屋の段(はままつこやのだん)
嶋田宿笑い薬の段(しまだのしゅくわらいぐすりのだん)
宿屋の段(やどやのだん)
大井川の段(おおいがわのだん)

これまでのあらすじ

大内家の家臣、宮城阿曾次郎(みやぎあそじろう)は、宇治川に蛍狩りに訪れ、芸州岸戸の家老、秋月弓之助の娘・深雪(みゆき)と出逢い、恋に落ちます。深雪に乞われ、阿曾次郎は深雪の扇に朝顔の歌を認めます。そこへ阿曾次郎の伯父駒沢了庵(こまざわりょうあん)から、家督を継いで急ぎ鎌倉へ向かい、遊興に耽る主君、大内義興(おおうちよしおき)を諫めよ、との便りが届き、二人は約束して別れるのでした。

上演された段のあらすじと感想など

多くの船が風待ちをする明石浦で、阿曾次郎は近くの船から聞こえてくる朝顔の歌に気づきます。そこには国許に向かう弓之助や深雪が乗っており、二人は再会を喜びます。一緒に連れて行ってほしいと縋る深雪に心を動かされた阿曾次郎は、せめて両親に置手紙を書くようにと勧め、深雪が手紙を書くために自分の船へ戻ったそのとき、強風が吹き始めそのまま船が出船してしまいます。深雪は遠ざかる阿曽次郎の舟へと朝顔の歌が書かれた扇を投げ込むのでした。(明石浦船別れの段)

~この間のあらすじ~
国許へ戻った深雪に縁談が持ち込まれますが、相手が名を変えた阿曾次郎とは知らない深雪は思い詰め、家出をしてしまいます。道中、山賊に捕まり、人買いの輪抜吉兵衛(わなぬけきちべえ)に売られてしまいますが、なんとか逃げ延びます。

遠江国浜松城下では、立花桂庵(たちばなけいあん)という医者が怪しい笑い薬を売っています。そこへ、嶋田宿で宿屋を営む戎屋徳右衛門(えびすやとくえもん)が通りかかり、煙草の火を借りた例にと薬を買っていきました。入れ違いに深雪を探す吉兵衛がやって来て、深雪を見つけたら知らせるようにと桂庵に言いつけます。(薬売りの段)
深雪は艱難を重ね、目を泣き潰し、浜松の街道筋で三味線を弾いて露命を繋いでいました。乳母の浅香に再会したものの、浅香は吉兵衛と争い、深雪を守って致命傷を負ってしまいます。死の間際に、困ったときには嶋田宿辺りにいる自分の父を頼るよう伝えて力尽きるのでした。(浜松小屋の段)
一方、家督を継ぎ、主君に諫言して本心に立ち返らせることができた駒沢次郎左衛門(こまざわじろうざえもん)こと阿曾次郎は、嶋田宿の戎屋徳右衛門方に同輩の岩代多喜太(いわしろたきだ)と逗留しています。実は岩代は義興に遊興を勧め御家転覆企んだ家老、山岡玄蕃(やまおかげんば)らの一味で、医者の萩の祐仙に痺れ薬を入れた茶を点てさせて殺害を企みましたが、
企てを知った徳右衛門が笑い薬を入れた湯と取り替えます。毒見をした祐仙は解毒薬をこっそり飲みますがもちろん効くはずもなく笑いが止まらくなり、企みは失敗に終わるのでした。(嶋田宿笑い薬の段)
座敷に戻った次郎左衛門は、傍らの衝立に貼られた扇面に記された朝顔の歌を歌う朝顔という女性がいることを知ります。その女性は深雪なのではと考えた次郎左衛門が座敷に呼んでみると、やはり朝顔は変わり果てた深雪で、琴に合わせて朝顔の唄を唄い、次郎左衛門と別れてからの苦労を語ります。次郎左衛門は自分が阿曾次郎だと名乗ろうとしますが、多喜太の手前それもできず、深雪もまた聞き覚えのある声だと思いながらも帰って行きます。
次郎左衛門は多喜太が座敷から去った後、朝顔をもう一度呼ぶよう徳右衛門に頼みますが、別の場所に出掛けてしまい今夜中には間に合わないと言うので、明石浦で自分に残された扇にお金と目薬を添え、朝顔に渡してくれるよう頼んで出発します。その目薬は明国渡来のもので、甲子(きのえね)の年に生まれた男性の生き血とともに服用すれば、どんな目の病気も即座に治るというものでした。
何か気にかかるものがあり急いで戻ってきた深雪は、渡された品々から次郎左衛門が夫の阿曾次郎で会ったと知り、雨の中その後を追うのでした。(宿屋の段)
深雪はやっとの思いで大井川までたどり着きますが、次郎左衛門一行はすでに川を渡ってしまっていたうえ、急な出水で川止めとなってしました。せっかく逢えた夫とまたもやすれ違ってしまい絶望してしまった深雪は川に身を投げようとしますが、駆け付けた奴関助(やっこせきすけ)に引き留められます。同じく後を追ってきた徳右衛門は深雪と関助の話を聞くと短剣を腹に突き立てます。徳右衛門は自分こそが浅香の父であり、かつて深雪の父に命を救われたこと、甲子の生まれであることを語り、徳右衛門の生き血で目薬を飲むと、とたんに両目が開きました。その様子を見届けて徳右衛門は息を引き取るのでした。(大井川の段)

2021年7月国立文楽劇場前

若手会で観たばかりの演目だし、露骨な親子別れもないから泣くことはないだろうと油断していたら、まさかの浅香(勘彌さん)に泣かされた。あの浅香はずるい…めちゃくちゃよかった。
若手会のときは浅香と朝顔の再会の段(浜松小屋の段)の上演はなく、浅香のイメージと言えば、「死してなお忠義を尽くしおったか(by徳右衛門)」しかなかったのだけれど、やられた。完全に深雪の母。乳母って、ある意味母より母らしい存在なんだろうな。そして深雪があんなに向こう見ずに恋に盲目に突っ走る女の子になったのも、きっと深雪がかわいくてかわいくて、で育てたんだろうなと思った。そして浅香、相当モテたのではないだろうか。歳を重ねたなりの落ち着いた色気があり(いくつぐらいなんだろ、でも私より絶対若いだろうな)、輪抜と戦うところなんてかっこよすぎて惚れるわ…
床は呂さん&清介さん。浅香が変わり果てた姿の深雪に縋りながら、この年月骨身を砕いてようやく尋ね逢えたのにそれでも去ろうとするなんて「胴欲ぢゃ胴欲ぢゃわいな」と言うところが印象的。「胴欲」という言葉は、欲深くて非道なこと、という意味(貪欲の音変化したものだそう)で、文楽の世界ではよく耳にする言葉。この「欲」という部分の陰に、胴欲と言う人言われる人の様々な想いを含む気がして、太夫さんがどんな感じで発するのか、個人的にとても気になる好きな言葉でもある。呂さんの胴欲、最高だったなあ。

浜松小屋の前の段である薬売りの段の希さん、すごくよかったんですが!この段も若手会で上演がなかった段。希さん、ああいうおもしろ話を語っても品があって好き。全然関係ないけれど、とても痩せてらっしゃるのにあんなにしっかりと声が出るのがすごい。完全に大きなお世話だが、どうかしっかり食べて夏バテなどなさりませんように。
この薬売りと浜松小屋の両段があるのとないので、物語の全体のメリハリや徳右衛門や浅香、深雪の人物像の把握、笑い薬というおもしろアイテムの伏線、といった点で大きく変わってくるなあと思った。

阿曽次郎(和生さん)と深雪(勘十郎さん)、次郎左衛門と朝顔とでは、時間の経過を感じられてさすがだなと思った。大井川の段で、朝顔が大井川に入水自殺しようと着物に石を詰めるシーンがあり、詰めた後の朝顔からはしっかりと重さを感じらた。お人形の諸々の動作自体に、やっぱりさすがなんだなあと思わされる。
和生さんの次郎左衛門がとても素敵でしゅっとしていて(関西弁の最上級の誉め言葉)、正直なんで深雪にあそこまで惚れ込んだのか少々謎であった。度重なるすれ違いの綱渡り効果的な?
反対に深雪が阿曽次郎に惚れるのはものすごく納得。私としては次郎座衛門には姉さんだけど慎ましく、引き立て引っ張りしてくれそうな浅香がぴったりだと思うのだけど(激しく浅香推し)

笑い薬の段。
早く駒沢に痺れ茶を飲ませたいイライラな岩代(玉輝さん)、冷静沈着な駒沢、ただの宿屋の主人ではない徳右衛門(勘壽さん)、そして出オチ感満載の萩の祐仙(簑二郎さん)と、濃厚キャラ満載の段だった。簑二郎さんがあんなにおもしろキャラになるなんて思いもしなかったのでほんと笑っちゃった。細かい丁寧な動きが、笑いを取ろうとしているのか、もともとそういう動きなのか分からないけれど、チャリ場の楽しさってこれこれ!と思った。で、そんな祐仙は、その名も「祐仙」というかしらだそうで、この祐仙オンリーのかしらってことのよう。そりゃあおもしろいはずだわ。
ひたすら笑いまくる祐仙を前に微動だにしない駒沢、もしやいつの間にか痺れ茶飲んじゃって実は痺れて動けないのでは?と思ってしまうぐらい。すごすぎる。だって普通にじっと立っているだけでも動いてしまうのが人間。人形だから??とにかく駒沢(和生さん)はただ者ではなかった。
奥は咲さん&燕三さん。

宿屋の段。
深雪は勘十郎さんにぴったりのお役だなと思った。まさにドラマティックというか、動きのひとつひとつや表情からほとばしる感情が溢れているというか。琴を弾くところで阿古屋を思い出したけれど、ガイドブックによると、そもそも宿屋の段の朝顔、駒沢、岩代の関係は「阿古屋琴責」の阿古屋と畠山重忠、岩永左衛門を意識したものと言われているそう。なるほど。
宿屋の段で、朝顔の琴を聴いた岩代がころーっと態度を変えるところも笑いを誘っていた。同じお侍なのに駒沢と岩代とでは違いすぎて、見るからに不遜な岩代に駒沢はどこまでもくそ真面目に対応するものだから、その対比がまたおもしろい。1週回って馬鹿にされているのか、なんて思いもしない岩代の単純さもいい。
床は千歳さん&富助さん。

大井川の段。
靖さん&錦糸さん、これまたよかった。
そして大好きなねむりの娘のかしらの目が開く瞬間が角度的に観られなかったのが唯一の心残り。ねむりの娘のかしらは、眠っている(目を閉じている)分ふつうの娘のかしらよりうつむき加減であごが狭く、モダンな印象のかしらで美人です。お勧め。
(一番上の写真がねむりのかしらの朝顔、2つ目の写真が娘の深雪)
文楽の物語ではこういう生血を混ぜて飲む薬っぽいものがわりと出てくるけれど、昔はまじない的なものとして本当に流通していたのかしら…

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『生写朝顔話』、久ぶりに物語として私的ヒットと思えるものに出会えて楽しかったなあ。まずそれぞれのキャラ立ちがいい。そして段ごとのメリハリがあって、伏線アイテムも回収されてすっきりするし、浅香という推しキャラにも出会えた。もう一度観に行きたいけれど、夏休みに入ってしまって時間がなく残念。何年後かにまた出会えますように。

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