久しぶりに文楽以外の公演を観に行きました。
先行で当選してずーっと楽しみにしていた鬼滅の刃の能狂言!
タイミングよく、当日は煉獄さん(れん、は正しくは火へんに東)のお誕生日でした。
以下ゴリゴリにネタバレだらけ、ど素人のとんでもなく恐れ多い感想、鬼滅や文楽への勝手な思い入れも入りまくりの内容ですのでご注意ください。
大槻能楽堂の中に入ったのが初めてで、能楽堂ってこんな感じなんだと興味津々。屋外ではないのが不思議な感じ。
当選したS席のお席は脇正面席の4列目、正面席でないから見づらいかと思いきや、めちゃくちゃいいお席ですごく見やすかった~
演目によるのかもしれないけれど、今回の鬼滅だけでいうと、もしかして正面より脇の方が演出的に見やすい場面も多かったのでは。
そもそもなぜこれを観に行こうと思ったのかというと、去年の夏頃という遅過ぎる鬼滅デビューをしたことがきっかけです。
かねてから壁面の本棚に本と推しグッズをいい感じに飾れるようにしたいと思っていたため、まずは本を減らそうとちょこちょこ片付けており。で、いつか読むかと思っていた未読本もこの機会に軽くさらえてみるか〜、と読み始めたところ…一気にどハマり。処分する前にとりあえず、みたいな軽い気持ちだった自分が本当に恥ずかしい!これこそ穴があったら入りたいってやつです…
原作、というかマンガがあまりに素晴らしくておもしろくてメディアミックス作品には興味があまりなかったのだけれど、タイミングよく能狂言という古典芸能とのコラボレーションがあるという。
鬼滅の世界観や物語は能狂言にとてもマッチしている感じがしたし、あの物語がどう表現されるのか楽しみになり。
たまたま友人が前回の鬼滅の舞台も鑑賞していておもしろかったと言っていたので、これは間違いない、ぜひ行ってみたいと応募したのでありました。
物語は能と狂言が混ざり合ったような形、端的に言うと演劇的に進行するため、能狂言が初めての方でも、鬼滅の刃が初めての方でもどちらにも分かりやすいかと。
それよりも無限列車編と遊郭編というコミックス6巻分のボリュームをそれぞれ50分ずつにどうやってまとめ上げるのだろうかというのが気になって気になって。
結果、もちろん端折られている部分は多くはあるけれど、それでも作品の魅力を損なわず、能狂言ならではの魅力もプラスしながらうまくまとめられていてすごいなあと思いました(どの立場の感想)
第一幕。
「日継」という演目の炭治郎の独白で重要なキーワード「想いを継なぐ」という言葉が最初から明示され胸熱な幕開け。原作を知っている勢としては、御館様が無惨に語っていたように「人の想いこそ永遠で不滅」であり、脈々とつないできた人々の想いの先にいたのが炭治郎であったということがあらためて伝わって、さらに胸熱さを増したのではないでしょうか。
鬼滅にはたくさんの魅力的なキャラクターが登場するけれど、それにしても炭治郎の圧倒的主人さよ、と読むたびに思う。そんな炭治郎を狂言師さんが演じる、しかも違和感なく、ということがとても感動的だった。
そして炭治郎は始めから終わりまで能狂言のスタイルで。あくまでこの舞台は能狂言です、という演出上の主軸にもなっていた。
キャラクターごとの語りの違いは鬼滅の世界観の中で浮いてしまいそうだけれど、逆に個性を出したり、鬼と人、先に逝ってしまった人を区別したり、といい効果を生んでいるように思った。
そして始まる女無惨様(萬斎さん・美)のパワハラ会議。
魘夢がすごく魘夢!面や髪、手などのビジュアルから動きから話し方から、紙面の魘夢が飛び出してきていた。魘夢の語りが現代語調(原作調)だったのもあるかもしれないけれど、もうひとつ驚いたのが演じておられたのが善逸と同じ方(野村裕基さん、萬斎さんの息子さん)だったこと。
かまぼこ隊が無限列車に乗り込む場面で3人のコミカルな掛け合いを締めるラストの善逸の台詞、「ばかなの~?!」があまりにもまんまで良すぎて爆笑。原作では「バカバカ!」しかも吹き出し外の台詞だったので、ここを拾ってくださった脚本家さんに大拍手したい。むしろ善逸のときの声が下野さんに似てるまであった。
善逸もっと見たかったなあ。
文楽と違って舞台上で使える大道具小道具も限られる中、どうやって表現するんだろうと思っていた無限列車、造形は激しくシンプル(誉め言葉)でした。
お弁当の箱の山を前にうまいうまいが止まらない煉獄さん(萬斎さん)、話し方や座り方諸々、煉獄さんだけ周囲の温度が高そうなところまでもうもう煉獄さんだった。
夢の場面では筝や尺八、三味線など、人物の台詞や地謡だけでなく、さまざまな楽器の音色が夢の雰囲気を表していて、客席の我々も無限列車に乗車しているような感覚になったのが印象的。
かまぼこ隊、煉獄さんとそれぞれの夢の演出もおもしろく、特に煉獄さんの夢で原作にはない母である瑠火さんの登場の演出がよかった。
パンフレットの解説によると、瑠火さんが舞っているのは能の「羽衣」で、天へ帰る天女と先立つ母を重ねているそう。ここの地謡にも「たらちね(垂乳根)」という枕詞が出てきたり、と解説を読んでいると、原作の台詞はもちろん公式ファンブックにいたるまで物語やキャラクターの解釈の源を広げ、他の能や狂言の作品、和歌なども取り入れながら演出を深めているのが分かり、非常に感嘆します。
パンフレットは不織布のバッグがセットで1冊2,500円、買う価値あり。読んだ今、もう一度観たいです。
話がそれました。
「眠って一からやりなおしたい」消えていく自分を「惨めな悪夢」と言う魘夢、夢を操る鬼の最期としてとんでもない皮肉になっていて、これはショックだろうな、と。
文楽でも死の場面は善人であれ悪人であれ、胸にくるものがありますが、やっぱり人間が演じるというのはお人形とはまた違っていて、能狂言ならではの幽玄さを感じてぐっときました。
そして煉獄さんの死の場面。萬斎さん、圧巻。泣かないと思ったのに泣いてた…
煉獄さんってものすごく人気があって、でも読んでみたらお話の中ではほんの少ししか登場していなかったのに驚いた記憶がある。鬼滅を知らなかった頃の自分は、世の中がなぜそんなに煉獄さんブームになっているのか全く分からなかったけれど、今はそうなるのも必然と分かったし、読めば読むほど味わいが深くなる、それが鬼滅の物語であると思っています。
吾峠先生が最初から最後まで一貫して「つなぐことの尊さ」を描いてくださったから、あれだけ壮絶で哀しい物語の中で「つないできたもの」に救いがあると信じて読み進めてこられたんだろうなあと思う。本当にとんでもない作品。
また話がそれた…
名言だらけの炭治郎への言葉がけでは立派すぎる鬼殺隊士の煉獄さんを思って心が痛くなり、瑠火さんの前で息子として母に「自分はできただろうか」と問いかける様には母の立場をも思って心が痛くなり。
舞台で表現された煉獄さんの最期は、観る人の心により強く残るような、客席まるごとが煉獄さんの生きざまを共有したような、そんな一体感にあふれた静かな幕切れでした。そのまま第一幕終了となったので、余韻がすごかったです。
第二幕。
宇随さん登場、派手柱で素敵。まさかムキムキねずみが人間サイズで表現されるとは思っていなかったので笑った!炭子、猪子、善子と派手柱とのやりとりもおかしくて、狂言との親和性がばっちりで楽しい。余った善子が「アタイ、吉原一の花魁になってやるわ!」とエア三味線を弾くところまであって、善逸(善子)ファンにはたまらない演出。ちゃんと「某」で名乗り始めたのに「アタイ」になるのがいい。
宇随さんと炭治郎との共闘で倒された妓夫太郎、妹の堕姫とのやりとり。この日の妓夫太郎役は大槻文藏さんでなく、炭治郎・禰豆子(禰はしめすへん)役の大槻裕一さんのお父様、赤松禎友さんでした。大槻さんの妓夫太郎、観たかったなあ。原作では炭治郎にたしなめられるまでやんややんやと罵り合っていたけれど、能狂言版では妓夫太郎の抑えた台詞まわしに哀しみが詰まっているように感じられてとてもよかった。
妓夫太郎は最期に梅の名前を思い出すのだけれど名前の由来は明かさないため、原作を知らない方はどうぞ読んでみて、とパンフレットでアテンドが。
結びの場面ではシャレオツ無惨様が登場し、炭治郎と禰豆子、絶対倒す!で〆。萬斎さん、女無惨様も素敵だったけれど、この無惨様のお衣装、めちゃくちゃお似合いでした!
アンケートにはしっかりと次回、刀鍛冶の里編のリクエストもしてきました。
グッズ展開はこんな感じ。
大阪会場では能楽堂のキャパや立地的にも行列になると困るためか、開場1時間前から順不同の整理券が配布され、購入権ゲットというシステムになっていました。
私はちょうど11時過ぎに着くように行き、整理券をもらいました。開場から開演までの1時間ではける人数の整理券枚数なので、100枚程度だと思います。そして整理券受領後は現地で留まらず解散して、という指示のため、購入時間になると呼び出しメールが届くようその場で登録、簡単で便利。
購入時にはチケットにチェックを入れ、会計は1回のみ。見たところ転売ヤーもおらず、ごくごく平和。開演前整理券をゲットできなくても幕間休憩や閉幕後に普通に少し並べば購入できたので、焦らずとも大丈夫だったかと(特に欠品もなかったような)
近頃、鬼滅イベントでの転売ヤー問題が激しいらしいので、同じ鬼滅でも運営の差でこんなに変わるのかと思う。客層の違いもあるのかもしれないけれど。
吾峠先生描き下ろしの煉獄さんイラストが素敵すぎる念願のアクスタをゲット。
箔押しの加工がきらきらと繊細ですごくきれい。鬼滅のグッズもかなり増えたなあ…
二次会はうちで。友人が煉獄さんをイメージして焼いてきてくれたキッシュが美味!仕上げにピンクペッパーを乗せるはずだったそうなのだけれど忘れてしまった、ととてもショックがっていた(うちにもピンクペッパーがなくて悔しい)
紅たでの赤とヤングコーンの黄色がまさに煉獄さん。ケーキでお祝いでないのが酒飲みならでは。
帰宅してからささっと用意したかったので、中華やエスニック風味なおつまみにメインはパクチーたっぷりタイ風豚しゃぶ。
友人が用意してくれたレモングラスやこぶみかんなどを入れたタイの香りたっぷりなお鍋、夏にもぴったりです。
それにしても、今回の鬼滅の能狂言は厳密には能狂言とは違うのかもしれないけれど、人間国宝の方が監修、出演される『新作』ということが、なんと贅沢で魅力的で刺激のある試みなんだろうと興奮すらしてしまう。
鬼滅の刃という巨大パワーコンテンツの力も当然あるとは思うが、これをきっかけに新しく能狂言を知る人は絶対いるはずで、もしかしたら別の作品も一度観てみようかなと思う人だっているかもしれない(現に私も観に行きたくてうずうず)
出演される方々の年齢を見ても、大御所から若手まで幅広い世代の方がおられ、客席には親子連れや(未就学児は×)学生さんらしき姿がちらほら見えた。
それこそ「継ぐ」というのは古典芸能において非常に重要なテーマであり、どのジャンルでも悩みの種になるものではあると思うが、こういった新しい試みにトップ自らが参加する、ということが、後に続く人やものに対してどれだけ道を開いていくことか、と思わざるを得ない。
というようなことを飲みながら友人たちと語っていました。みんな文楽が好きだからこそ、ずっと観ていたいからこそ今後どうなっていくのか、やっぱり気になる。
三位一体の文楽で新作をやるのは想像以上に難しいことだとは思うけれど、新作を長くつなぐことで古典になっていく。満員の客席、起こる大拍手。文楽でもこんな舞台が観たいなあと切実に思いました。