大阪発祥の伝統芸能『文楽』にどっぷりはまっています。先日、11月公演の作品の見どころなどについて人形遣いの方々から話を伺うことができる文楽のつどいに参加してきました。そのときのお話や文楽との出合いなど、自分だけが楽しい記録になるかもしれませんが記していきたいと思います。
文楽とは、太夫・三味線・人形が三位一体となった総合芸術。ユネスコの無形文化遺産に認定されており、その成り立ちは江戸時代初期にまでさかのぼります。
もともと私の友人が人形遣いの練習をしていて(文楽座ではない)、人形浄瑠璃を鑑賞するようになったのが文楽が気になり始めるきっかけでした。その当時はそこまではまることもなく友人ががんばっているなあというぐらいで終わっていたのだけれど、伝統芸能に詳しい友人に誘われて今年初めの初春公演に行ったことでどっぷりとその魅力に取りつかれてしまいました。そのときの演目が『平家女護島 鬼界が島の段』。私、これを見ていて涙が溢れてしまったんです。周りにそんな人はもちろんいなかったのでかなりこらえたのですが、止まらなくて。人形から伝わる絶望的な想い、太夫さんの語りに三味線の音。こんなに胸に迫るものなんだとは思いもしませんでした。六代目竹本織太夫さんの襲名もあり、新春の華やかな雰囲気もあいまって、新しい世界に驚きと感動と興奮で手が震えて手汗が引かなかったほど。
源太(げんだ)の人形の首(かしら)と、主遣いが履く舞台げた。
人形は、主遣い(おもづかい)、左遣い、足遣いの3人で操り、重いものでは10kg近くあるそう。私もまだまだ超初心者ゆえ知らないことばかりなので、詳しくは公益財団法人文楽協会オフィシャルサイトや、竹本織太夫さんのご著書をどうぞ。このご本、初心者にもとても分かりやすく、読み物としても楽しくて私もしょっちゅうめくってしまいます。
私が大好きな三代目桐竹勘十郎さん。
友人からのご縁で、文楽鑑賞後に舞台よりもっと近くで人形を遣うところを見せていただいたことがあります。NHKの『にほんごであそぼ』にも出ておられるので、お子さんがおられる方はご存知の方もいらっしゃるかもしれません。(織太夫さんも出ておられます)勘十郎さんの何が好きかというと、やっぱりその人形遣いの技と演技いうのでしょうか、左遣いと足遣いとの阿吽の呼吸を生み出す技術と、人形を操って演じるという人形だけでなくご本人も含めた役者としての演技がもうたまらないんです。
圧倒的存在感。そしてご本人のたたずまいも素敵で、お話もすごくお上手で分かりやすくて。
その勘十郎さんのお話と、人間国宝でもある吉田和生さんのお話が伺えるという文楽のつどい。文楽友の会(速攻で入会した)の会員限定のイベントでしかも抽選のため、当選のメールが来たときはうれしくてうれしくて!
11月公演の近松門左衛門の代表作『女殺油地獄』にまつわる盛りだくさんな内容でした。ごく簡単に作品のあらすじを述べると、家庭の事情でわがまま放題に育った河内屋与兵衛が近所の油屋のお吉を殺し、金を奪って逃げるというお話で、近松が実話をもとに創作したといわれています。
1.映像記録 歌舞伎『女殺油地獄 豊嶋屋油店の場』
国立歌劇歌舞伎鑑賞教室 昭和60年7月
五代目 中村勘九郎・七代目 中村芝翫 ほか
2.お話 『女殺油地獄』の中に見られる宗教性 釈徹宗(相愛大学教授)
3.座談 『女殺油地獄をめぐって』
吉田和生 桐竹勘十郎 釈徹宗 くまざわあかね
1も2ももちろん興味深くおもしろかったのですが、私のメインイベントは3の座談。以下記憶に残ったお話の私的メモ。
・平成12年以来の和生・勘十郎のお吉・与兵衛コンビ
・舞台にある人形は今回に使用するもの(お吉の着物はその当時まだ間に合っておらず)
・どうしても殺しの場面に注目してしまうが、演者としてはまず注目してほしいのはその前の河内屋内の段
・与兵衛の殺意がどこで芽生えたのか→脇差を指してきている時点でなんらかの計画性(殺人までは想定していなくても、脅し程度の)があったのではないか
・かといって与兵衛は根っからの悪人だったのか?
・特に、お吉が金を貸さないとなったあと、与兵衛が空の樽を見た瞬間が殺しへの転換ポイントとなっていると思ってやっている
・お吉にとっては日常の延長に突然起こった予想もしない出来事なので、訳が分からない
・油で滑る演技は足遣いがエンジンで左がブレーキ、危険もあり怪我することもある
・勘十郎さんはお吉もやってみたいそう
・文楽は人形、三味線、太夫と観どころ聴きどころがたくさんあって目移りしてしまうが、人形を見てほしい
お二人のお話はとてもおもしろくて、時間に限りがなければずっと聞いていたかったです。落語作家のくまざわあかねさんのMCは初心者でも分かりやすい目線で質問してくださっているのが素晴らしくて、先日のNHKの『にっぽんの芸能』もよかったなあ。
公演のチラシとパンフレットはこんなデザイン。おしゃれで洗練されていてセンスがいいなと毎回思ってしまう。チラシはもう1種類あって、少しだけ英語表記されているものになっています。外国語による音声ガイドもあるし、外国人の方々の鑑賞も意識されているのだろうな。
これは完全に私の自慢の品々なのですが、切り絵作家の杉江みどりさんが演目の場面を切り絵で表現されたクリアファイルや、手ぬぐいなど。特に切り絵デザインのファイルは素敵で愛用しています。外国の方のおみやげなんかにもよさそう。手ぬぐいはもったいなくてまだ袋から出せていません。
熱く長々と萌え語りをしてしまいましたが、とにもかくにも楽しみな11月公演です。文楽に出合えてよかったなあ。