もう3月も目の前ですが、今更ながら感想アップの初春好演です。
平成10年(1998年)4月以来、28年ぶりの上演という二部の演目『新薄雪物語』
タイトルの「薄雪」というのは女性の名で、元の『薄雪物語』から改作されたもののため『新』がついているとのこと。
なんとなく儚く切なそうなイメージを抱くタイトル、イメージ通りなのかはたまた新年早々どーんと暗くなる物語なのか(あるある)
『新薄雪物語』(しんうすゆきものがたり)
これまでのあらすじ
鎌倉幕府将軍家に誕生した若君の祝いの守り刀を打つ刀工を決めるため、園部兵衛(そのべひょうえ)、幸崎伊賀守(さいさきいがのかみ)、秋月大膳(あきづきだいぜん)らが集まり、兵衛が推挙した来国行(らいくにゆき)に命が下ります。
見本に打った影の太刀を兵衛の子、左衛門(さえもん)が清水観音に奉納することになり、清水寺で幸崎の娘、薄雪姫は左衛門を見初めます。かねてより恋仲である薄雪姫の腰元、籬(まがき)と左衛門の奴、妻平(つまへい)が姫たちの間を取り持ち、二人は後日の逢瀬を約束しました。
上演された段のあらすじと感想
国行から勘当の許しを得るために音羽の滝詣でを続ける国俊(くにとし)は影の太刀を奉納に来た国行と偶然会い声を掛けますが拒まれ、泣いて別れます。
人気がなくなると五郎兵衛団九朗(ごろうびょうえだんくろう)が木陰からあらわれ、影の太刀に天下調伏のヤスリ目を入れ始めます。団九朗は秋月大膳が味方に引き入れた五郎兵衛正宗の息子で、刀工に推挙したものの敗れたため大膳は園部兵衛を恨んでいます。その場を見とがめた国行はどこからか飛んできた手裏剣に倒れてしまいました。実は、団九朗にヤスリ目を入れさせ、国行に手裏剣を打ったのは大膳でした。渋川藤馬(しぶかわとうま)を従えて現れた大膳に団九朗はヤスリ目のことは他言しないと誓って帰ります。
大膳は薄雪姫が左衛門に謎をかけた封じ物を見つけ、二人の関係を知り悪計を巡らせます。そこへ国行を探す左衛門が妻平を共にやってきます。左衛門は妻平に国行を探して帰ってくるよう申しつけ、大膳とともに帰っていきました。
渋川藤馬と妻平が残りますが、籬に横恋慕している藤馬は奴たちをつかい妻平に喧嘩をしかけたものの、妻平にさんざん追い散らされるのでした。≪清水寺の段≫
左衛門は約束の日に薄雪姫に会うため幸崎の館へ忍んでやってたところ突然渋川藤馬が現れ、主の大膳が薄雪姫を妻に望んでいると申し入れます。奥方は夫の帰りを待って返事をすると言いますが、藤馬が左衛門と薄雪姫の密会をほのめかしたところ奥方に追い返されてしまいます。
その夜奥方は二人に早速仮祝言を挙げるよう言い、腰元たちに用意をさせます。≪渋川使者の段≫
影の太刀にヤスリ目が入れられた事件の評議にて、葛城民部は左衛門を責めますが左衛門は覚えがないと返します。様子を聞いていた幸崎の奥方は、薄雪姫は関係のないことと夫の伊賀守に話すと、大膳は薄雪姫が左衛門に宛てた判じ物を持ち出し、薄雪姫も左衛門と同罪だと責めます。
左衛門は薄雪姫をかばい、行方の知れない来国行を探し出す猶予を願うところに国行の死骸が運ばれます。左衛門は途方に暮れますが、死骸を調べた民部は詮議の糸口をつかみます。
伊賀守は二人の子をそれぞれの親が預かり詮議を願い出ますが大膳は反対します。民部がそれを押しとどめ、左衛門は伊賀守、薄雪姫は兵衛に預けられ、さらに調べるようにと申し渡しました。≪評議の段≫
園部兵衛の奥方、お梅の方が薄雪姫を慰めているところへやってきた兵衛は、秋月大膳が怪しいと思うものの証拠がなく、このままでは六波羅の手に移り責め殺されてしまうかもしれないので、密かに逃がすつもりだと語り、妻平を呼びました。籬は姫の身と、逃がしたのちの園部の家を案じ反対しますが兵衛に諭されます。妻平と籬に守られ、薄雪姫は大和の当麻寺を目指して逃げ落ちました。
そこへやってきた伊賀守の使者、刎川兵蔵(はねかわひょうぞう)は、左衛門が今朝罪を白状したのでただちに影の太刀で首を討った、薄雪姫も同罪なので首を討ってほしい、左衛門の首は後程持参する、との口上を伝え、影の太刀を兵衛に渡して帰ります。届けられた太刀についた血糊を見た兵衛は何事かに気付き、奥へ入っていきました。
首桶を携えた伊賀守が現れ、お梅の方に姫の首を討ったか尋ねますが、我が子を殺された怒りに震えるお梅の方は返事をしません。そこへ左衛門が忍んできて陰から母を呼びました。夢かと立ち上がろうとしたお梅の方を伊賀守は遮り、狐か狸か幽霊なら早く消えよと叱咤し、左衛門はすごすごと去っていきます。
兵衛、中には預かった子を取り逃がした代わりに親の命を召されよ、という願書がそれぞれ入っていました。影の太刀の血糊は左衛門のものではなく、伊賀守が切腹したためのもので、それに気づいた兵衛は奥で自身も腹を切っていたのでした。
我が子を守る道筋を見出し、親としての責務を果たせた安心から三人は久しぶりに存分に笑い、駆け付けた伊賀守の奥方とお梅の方は互いの子への心遣いを感謝します。そして子が世に出るまではと夫に取り縋りますが、二人の夫はよろめく足を踏みしめて六波羅へ向かうのでした。≪園部兵衛屋敷の段≫
このあとのあらすじ
五郎兵衛正宗は、影の太刀に入れられたヤスリ目が自分の家の流儀であることから、息子の団九朗の仕業と気づいていました。父の厳しさに改心した団九朗は大膳に悪事を白状し、逃げてきた左衛門たちを助けます。左衛門と薄雪姫は、国俊、妻平、籬らと力を合わせて大膳を討ち果たすのでした。

ということで、新年早々「合腹(あいばら)」という、父親同士が切腹の傷を着物で隠しながら対面する、というすさまじい最期でした。
お梅の方に和生さん、伊賀守に勘十郎さん、兵衛に玉男さん、と御三方が同じ段に一度に立たれるというだけで貴重。
さて、物語はというと登場人物が多くて少しややこしい。が、悪要素は大膳が一手に引き受けているため複雑すぎずちょうどよい(ちょうどよいとは?)
お世継ぎの守り刀を巡る陰謀がきっかけとなり、2組の恋仲の男女、親と子、敵と味方、とさまざまな人間模様が繰り広げられます。
清水寺の段、妻平(一輔さん)のアクション俳優系の立ち役、珍しい。はんなり一輔さんはもちろんのこと、こういうお役もよきなのでは。
ツメ人形さんたちとの大立ち回りはなかなかの動きがあり、難しそうだなあという感想。
舞台が華やかで桜の時期に京都へ行きたいなとなった。秋に推し活旅で京都に行ったものの、分刻みのスケジュールで2日間で4万歩を軽く歩くという過酷スケジュールだったためゆったり楽しむ京都に心残りが……(何の感想)
渋川使者の段、前の段で妻平にやられた藤間が頭に包帯を巻いて登場し完璧な出オチ。お人形のこういう変化っておもしろくてかわいい。
そして幸崎の奥方に追い返されるという、いいとこなしの藤間です。
この後、薄雪姫と左衛門の寝所の場面があり。文楽にもそういうシーンがあるとは聞いていたけれど初めて観ました。
笑いに変えつつも事後感が生々しくて驚く。死の場面でもそうだけれど、生死のエネルギーがあふれる場面でのお人形の生々しさって本当にすごいなと何度でも思う。
長丁場なので若干間延びしたりする部分もありながら、それでもラストの園部兵衛屋敷の段はさすがの素晴らしさ。
冨助さん&千歳太夫さん、圧巻でした。3月に千歳太夫さんと錦糸さんの素浄瑠璃の会に行くのがものすごく楽しみです。
『子を思ふ親心は、これほどにも割符が合ふものか』と兵衛と伊賀守が互いの思いが同じだったことを確認し、兵衛の奥方のお梅の方が2人のその様子に『両方お心の合うたこと、竹を割つて合はせたやうなと申さうか』と言うところ。
その後に続くお梅の方の言葉、
『子ゆゑに命お捨てなさるヽお前方は、恩愛もあり慈悲もあり、この母には何がある。
親といふ名はありながら、これほども子に愛想なく、側に居つヽも我が夫の、お腹召すのも夢現。
子には慈悲なく夫婦の情は皆欠ける。恨めしの身の上や。
後に残りて子に逢うて、言訳は何とせん』
ここが新薄雪物語の私的サビでした。ほんとにそう!悲しすぎた。和夫さん素晴らしかった。
三人笑いの場面も夫二人の晴れやかさとお梅の方のやりきれなさの高低差に耳キーンなるわ、です。すごい演出&シナリオ。
28年ぶり、という貴重な機会に観劇できてとてもよかったです。
新春公演はお着物でお越しの方も多く、空席も少なくてテンションが上がりました。
今年もちょこちょこ行けたらいいなあ。
