2021年4月文楽公演『花競四季寿』『恋女房染分手綱』@国立文楽劇場

2021年4月文楽公演ガイドブック

先日観劇に行った4月公演の1部の感想をまとめようとしていたら、簑助さん引退の報を知り、驚きとショックといろいろで頭が真っ白になってしまった。いつかは、とは思っていたけれど、そのいつかは必ず来るんだなと。今はそれしか書けません。
また2部、3部を観劇に行くので、しっかりと記憶に焼き付けてきたいと思う。

◆『花競四季寿』(はなくらべしきのことぶき)

 
万才(まんざい)
海女(あま)
関寺小町(せきでらこまち)
鷺娘(さぎむすめ)
 

春、太夫と才蔵(さいぞう)の二人連れが家々を回って新年を寿ぐ「万才」、
夏、海辺を舞台に野趣に満ちた海女の恋を描く「海女」、
秋、老女となった小野小町が若き日の恋を偲ぶ「関寺小町」、
冬、雪景色の中、鷺の化身である娘が春を待ち焦がれて舞う「鷺娘」、
近畿圏の四季の情景を綴った景事(音楽性と舞踏的要素が強い演目)です。

 
床が最高。錣さんがものすごく素晴らしくて、友人と、「錣さん素晴らしかったねえ!」と思わず言い合う。錣さんと宗助さんのコンビ(ではないそうだけれど)は鉄板だなあとこの度も思った。
対して、お囃子がなんだか微妙にずれのような、しっくりこない部分が何度かあり、おや?と思った。今までお囃子でそういうことを思ったことがないので、余計に気になったり。

春の才蔵(玉勢さん)のかしら、祐仙(ゆうせん)というものだそうで、おそらく初めて見たような。初春のおめでたく楽しい雰囲気がよかった。
夏は蛸のお人形がひたすらぶさかわいすぎて。思い出しても笑える。かわいらしい目にとってつけたような口、足なんて漬物用に干してある大根にしか見えず。ツメ人形(蛸でもツメ人形って言うのかな?一人遣いの人形のこと)で、これがまたいい動きをする蛸だった。
関寺小町は、なんと100歳になった小野小町。さすがの小野小町も婆のかしらでかつての美貌は影も形もないです。みすぼらしい見た目はもちろん、過去の栄光にものすごくしがみついている感が非常に現実っぽくてぐっときた。婆のかしらの凹凸感、虚ろな目の感じがとてもリアル。
鷺娘、さすがの清十郎さんの美しさ。清十郎さんの出番がこれだけなのがさみしい。両手に傘を持って回しながら舞うので主遣いと左遣いでどうしても回転に差も出てくるし、難しそうだなと思った。
今回のガイドブックの表紙、いつも(お人形の衣裳の柄が使われている)と違って単色刷りみたいな雰囲気、と思ったらこの鷺娘の衣裳だった。実物はものすごく美しくて驚いた。
 

◆『恋女房染分手綱』(こいにょうぼうそめわけたづな)

 
道中双六の段(どうちゅうすごろくのだん)
重の井子別れの段(しげのいこわかれのだん)
 

大名、由留木家の姫君、調姫(しらべひめ)は、関東の入間家(いるまけ)への嫁入りの旅を嫌がる姫に、乳人(めのと)の重の井はじめ一同は困り果てます。そこへ嫁入り行列に雇われた馬方(うまかた)の中に姫と同じ年頃の子どもがおり、東海道の道中双六をしていると知らせが入りました。重の井はその子ども、三吉(さんきち)を呼び出して姫の機嫌取りのために双六をすると、姫が一番先に上がりの江戸に着き、姫の機嫌も直るのでした。(道中双六の段)
褒美の菓子と小遣いを渡す乳人の名が重の井だと知った三吉は、自分の母様だと重の井に縋り付きます。実は三吉は重の井が別れた夫との間にもうけた子、与之助(よのすけ)でした。父親と三人で暮らしたいと願う三吉に、馬方と姫が乳兄弟であるとなれば姫の縁談の妨げになると恐れた重の井は、親子の名乗りができません。せめて小遣いをと三吉に渡そうとしますが、母でも子でもないのであればと断り、三吉は涙ながらに馬子唄を披露するのでした。(重の井子別れの段)

 
あらすじを読んだだけで、これ絶対泣くな、と思っていたら案の定。
重の井(和生さん)が、単なる乳人のときと、三吉が息子と分かってからとで全然違っていてすごかった。完全に母だった。私も母だけれどあんな母性感って出ているのだろうかと思わず自身を振り返ってしまったわ…
ひたすらに縋り付く三吉(玉彦さん)がもうかわいそうでかわいそうで。調姫12歳、三吉11歳。二人とも子どもだもんなあ。玉彦さん、ここ最近で一番目立つお役だったのでは。かわいそうでいじらしい三吉、とてもよかったです。
姫の出発にあたり重の井は乳人として実の息子である馬方に馬子唄を唄わるように命じて、割り切れなさすぎる悲しみをひた隠しにして髪を直すふりをしながら鏡で息子の様子を見る。そして三吉は泣きながら懸命に歌う。悲しすぎるわ…子別れ、つらい。いつもダメ男や心中話でもやっとしたりするけど、子別れのお話よりは精神衛生上いいのかもしれない。
そもそも、時代ならではの感覚が理解できないんだものなあ。重の井は自身の不義の発覚を恐れて子ども(三吉)を手放し、相手の与作(奥家老の息子、ええとこのぼん)は別の事件の罪を着せられて国を追われる。結局密通も明らかになり重の井自身も死罪になるところを代わりに切腹した父親に免じて赦された過去がある。それゆえお家の恩に報いる忠義がひたすらにあって。だからこそお家に傷がつかないよう、三吉に実の親の名乗りもできず別れるしかない。自業自得、と言えばそうなのかもしれないけれど、やっぱり不憫、というか誰よりも不憫なのは三吉でしょう。子どもが親の犠牲になっているもの。
 
咲太夫さん&燕三さんが素晴らしかった!この悲しいお話にぴったりな抑えた雰囲気でありながら内側に秘められた親子の互いへの想いが熱くひたひたと伝わってきて、より一層悲しみを増していたと思う。つらいお話だったけれど観られてよかったな。
 
企画展示「文楽の景色」の大道具
企画展示「文楽の景色」大道具の説明
 
いつも開場や友人との待ち合わせまでは1階の展示室の企画展示を見るのだけれど、今回は「文楽の景色」として大道具の展示があった。以前、舞台裏におじゃまさせていただいたことがあり、そのときに大道具やセットを初めて間近で見て非常に興味深くおもしろかったことをよく覚えてる。道具帳をもとにしっかりと丁寧に作り込まれた大道具の数々。公演終了後には解体されるなんてなんだかもったいないような気もするけれど、そんな大道具も含めて観劇を楽しみたいと思った。
 

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